「理系5割」政策が見落としている、本当の問題

文科省が高校の文理比率を半々にする方針を打ち出しました。しかし問題の本質は比率ではなく、理系・専門系を選びにくくしている構造にあるのではないでしょうか。
knockout 2026.02.23
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文部科学省が高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)を発表しました。

SNSや報道で特に注目を集めているのが、高校生の文系・理系の割合を半々にしていくという方針です。最終的には文系・理系という区分けそのものをなくしていこうという方向性も打ち出されており、大きな話題になっています。

この動き、実は数年前の大学政策の延長線上にあります。

2022年5月、岸田首相(当時)が率いる教育未来創造会議がある提言を打ち出しました。大学・高専を合わせた理系枠を2032年までに50%まで引き上げるというものです。特にデジタル(情報)系とグリーン(脱炭素)系の2分野を重点的に拡充する方針で、新学部の設置や文系学部の理系転換といった動きが各大学で起きました。

今回の高校改革は、こうした大学側の変化が高校段階にも降りてきた流れとして理解できます。

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理系人材が不足するというデータ


ここでもうひとつ、見ておきたい資料があります。

2026年1月、経済産業省から公表された2040年の就業構造推計(改訂版)です。

内容を整理すると、大きく3つの方向性が浮かび上がります。

  • 先端技術人材の不足:AIやロボットなど最先端技術を活用できる専門人材が、2040年までに大幅に不足する。

  • 現場・エッセンシャルワーカーの不足:ブルーカラーやエッセンシャルワーカーと呼ばれる現場系人材も、少子化の進行とともに深刻に不足していく。

  • 事務系・文系職の余剰:事務系(主に文系)の職業についている人材は余剰になっていく。地域別に見ると、とりわけ東京圏において文系人材が大幅に“人余り”になる見通し。逆に地方では、理系だけでなく文系も、そして現場人材は特に不足するという状況になる。

2040年の就業構造推計(改訂版)について|経済産業省

2040年の就業構造推計(改訂版)について|経済産業省

こうしたデータを踏まえると、国の意図が見えてきます。

少子化が進み子どもの数が減り続けるなかにあっても、社会インフラは維持しなければならず、そのための担い手は不可欠です。問題の本質は「理系・専門系の人材を今以上に増やしたい」ということではなく「今と同じ水準の人数を輩出し続けなければインフラが維持できない」という現実にあります。そのためには文系の規模を抑制せざるを得ず、結果として文理の比率はおおむね半々に落ち着く。これが国の考えです。

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理系を選ぶ人は増えているのか


理系・専門系の人材が不足すれば、その分野の賃金は上がるはずです。
そして、実際にそれは起きています。

「電気設備の保守点検で年収2,000万円」
「高卒の技能職で年収1,000万円超え」
「鳶職の初任給が10年前の2倍」

こうした景気のいい話が、現場の人材不足と絡めて報じられるようになっています。需要が変わらず供給が乏しい状況では賃金が上がる。資本主義の自然な動きです。

では、こうした状況を見据えて、あるいは、今後さらに加速することを見越して、若い人たちは理系や専門系を目指すようになっているのでしょうか。

答えはNoです。

増えていないどころか、今年度はむしろ逆の動きが起きています。

大手予備校の調査によると、大学入試では文系学部の人気が高く理系学部の人気が低い「文高理低」の傾向になっているといいます(大学通信ONLINE)。せっかくデジタル系学部やグリーン系学部を新設・転換した大学でも、定員を満たせないケースが出てきているようです。

高校受験でも同様の傾向が見られます。東京都立高校の今年度の最終倍率を見ると、理数科は全体で3倍近い人気がある一方、工業科は0.7倍程度と定員割れの状態です。

そして今年、最も驚いたニュースが、国立高専のトップクラスである明石高専が二次募集を実施したというものでした。土木系と建築系で定員が埋まらなかったのです。

明石工業高等専門学校

明石工業高等専門学校

トップクラスとされる学校でさえ定員充足に苦戦しているという事実は、象徴的です。

稼げることが分かっていても、若い人は理系や専門系を選んでいない。これはいったいなぜなのでしょうか。

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なぜ理系は選ばれないのか


「理系不足」と言われるとき、それは「理系の人材が少ない(人数が足りない)」という意味で使われます。もちろん人数不足は事実です。しかし、それだけでは説明がつきません。問題の本質は、「理系を選びやすい状態になっていないこと」にあると私は考えています。

家庭が子どもの進路を考えるとき、重視するのは国家が必要とする人材バランスではありません。判断の決め手になるのは、次のような要素です。

  • 大学・学校のブランド

  • ロールモデルの有無

  • 将来の安定性や成長性

  • 男女比の偏りによる心理的なハードル(女性にとってはとくに)

  • 大学入試で数学・理科ができなければならないというプレッシャー

  • 転勤や地方勤務で都市部で暮らせないかもしれないという「地理的なリスク」

なかでも「地理的なリスク」は見落とされがちですが、重大な要素です。工場や研究施設が地方にある理系職では、都市部でのキャリア設計がしにくくなる可能性があります。転職のしやすさ、ビジネスの最新情報へのアクセス、ライフイベントに合わせたキャリアの調整、子どもの教育環境の選択肢……。こうした点で都市部が有利なのは現実であり、それが理系離れの一因になっていると考えられます。

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もう一つの問題:「偏在」と「移動しにくさ」


理系不足は、偏在の問題でもあります。

ある地域にはそれなりにいるけれど、別の地域には圧倒的に少ない。不足する地域と余っている地域があったとして、では人はそこへ移動できるかというと、現実はそう簡単ではありません。

例えば、東京で文系人材が余剰になったとして、その人たちが「地方に現場仕事がある」と聞いて移動するかというと、難しい。生活環境の問題だけでなく、地方に残る「よそ者を受け入れにくい雰囲気」や、女性にとってのジェンダーギャップ(根強い男尊女卑や年功序列)といった文化的な障壁もあるからです。

大学の学部比率や高校の文理区分を調整しても、こうした構造的な問題がある限り、理系不足は簡単には解決しないと私は見ています。


では、どうすればいいのか


問題を整理すると、変えるべきは「数字の比率」ではなく「理系・専門系を選びやすい構造」です。家庭が安心して選べる環境設計になっていなければ、数字は動きません。

  • キャリアとしての魅力を作る:理系・専門系・現場系の仕事が「稼げる」だけでなく、ライフイベントを経ながらも続けやすく、キャリアを積み上げやすい状況にすること。

  • 情報を届ける:「なんとなく大変そう」「身近にロールモデルがいない」という情報格差を埋めること。どんなリスクがあり、どんな面白さがあるのかを具体的に伝える。

  • 入試設計の見直し:「数学・理科が完璧でないと理系に行けない」という心理的ハードルを下げること。これは特に女子の進路選択に大きく影響しています。

  • 移動・居住の選択肢を広げる社会設計:地方勤務のリスクを下げる制度、ジェンダーギャップの解消、受け入れ文化の形成。こうした社会制度の変化があって初めて、人の選択は変わっていきます。

「理系5割」という数字だけを動かしても、現実は思うように変わりません。逆に言えば、社会制度や環境設計が変われば、選択は自然と変わっていくのではないでしょうか。

大切なのは「理系を増やせるか」ではなく、子どもや家庭が様々な選択肢を安心して選べる社会になっているか、です。その問いは、政策立案者だけのものではありません。学校を選ぶ親として、進路を迷う本人として、考えてみる必要があるのかもしれません。

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文系を選ぶリスクは本当にあるのか


ここまでは、政策と市場の話でした。ここからは少し視点を変えて、一人の親として考えたことを書きます。

「都市部における文系人材あまり」

不安に感じられた方も多いのではないでしょうか。この点に関してです。

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