教育のデジタル化に待ったがかかる?

GWに入りました。新年度が始まってちょうど1カ月。子どもたちも新しいクラス、新しい担任の先生に、少しずつ慣れてきたころでしょうか。
4月は、短いですが濃密です。
子どもも親も、それなりに緊張を抱えて過ごしてきたはずで、そのぶん、GWは家庭で落ち着きを取り戻す貴重な時間でもあります。この1カ月をふり返りながら、今年度、あるいは、これからの子育てについて、ちょっと考えてみるにはいいタイミングかもしれません。
今回は、そんなGWにせっかくなので腰を据えて考えておきたいテーマ「教育におけるデジタルとの向き合い方」を取り上げます。
実は、ここ最近、世界的に潮目が変わってきています。各国でどんな動きが起きているのか、日本はどういう立ち位置にいるのか。データも交えながら、整理していきます。
世界で何が起きているのか
スウェーデン
北欧の国、スウェーデンやフィンランドは、教育先進国として持ち上げられたかと思えば、陰りが見えると批判される、毀誉褒貶の激しい地域です。なかでもスウェーデンは、教育のデジタル化を世界でも早い段階から積極的に進めてきた国のひとつ。「デジタル先進国」のイメージもあります。
しかし今、揺り戻しが起きています。
2026年後半には、教育目的での使用も含め、学校でのスマートフォン利用を全面禁止する方針を打ち出しており、実施に向けて準備が進んでいます。あわせて、教科書中心の学習を徹底する新カリキュラムを2028年に導入する予定とされています。
政権与党の教育担当者は次のように述べています。
子どもたちに必要な知識を身につけさせたいなら、本物の本を読み、本物の紙に書き、本物の紙の上で実際の数字を使って学ぶほうが、はるかに良い。
ただし、なんでもかんでも禁止というわけではありません。ポイントは、「使う目的」と「使う年齢」を明確にすること。とくに低年齢の子どもが基礎学力を形成する段階では、デジタルよりアナログを重視するという方向で見直しが始まっています。
オランダ
オランダでは、2024年1月に中等教育で教室内のスマートフォン禁止が導入され、2024/2025年度から初等教育にも拡大されました。
注目したいのはその理由です。
単に、授業中に気が散るからという話にとどまりません。子ども同士の対話や直接のやりとりを促すことで学習がより深まるという考え方、そしてネットいじめへの対処が大きな理由になっています。学校を安全な場所にするという観点です。
禁止後の効果はどうだったのでしょう。
調査対象の317校のうち、4分の3の学校が「子どもたちの集中力に良い影響があった」と回答し、3分の2が「学校の雰囲気が改善した」と報告しています。学校側の主観的な報告ではあるものの、「授業中の集中」と「安心できる居場所づくり」という2点で、現場の手応えとして改善が見られているのがわかります。
◇参考◇
▶ https://eurydice.eacea.ec.europa.eu/news/netherlands-ban-mobile-phones-classroom
▶ https://www.reuters.com/technology/study-finds-smartphone-bans-dutch-schools-improved-focus-2025-07-04/
オーストラリア
オーストラリアでは、2024年から全州の公立学校でスマートフォンの禁止・制限が導入されました。
その約1年後にニューサウスウェールズ州の約1000人の校長を対象に実施された調査では、87%が「授業中に気が散ることが減った」、81%が「学習が改善した」と回答しています。
オランダ同様、校長先生たちの主観的な評価ではあります。ただ、複数の国で、国境を越えて同じような変化の感覚が報告されている事実は、注目に値すると思います。
アメリカ・ロサンゼルス
最後に、アメリカのロサンゼルス。つい先日、ロサンゼルス統一学区で、授業中のスクリーンタイムを制限する決議が承認されました。
この学区は、コロナ禍に大規模な端末配布を進めた、いわばデジタル教育の先進地域です。パンデミックの間、「デジタル端末は子どもたちが学びとつながりを保つための命綱」とまで表現してきた学区が、今、使い方の見直し段階に入ったのは転換点を感じさせます。
学区の教育担当者はこう述べています。「テクノロジーは学びを広げる重要な道具だ。しかし、教育者に導かれ、目的をもって使われるときに最も効果的だ」。

世界全体の動きを数字で追う
ここまで個別の国の話をしてきましたが、世界全体ではどうでしょう。
ユネスコの最新の整理によると、学校でのスマートフォンを禁止・制限している国や地域の割合は、2023年6月時点では世界全体の24%でした。それが2026年3月時点では58%にまで増加しています。
3年足らずで、24%から58%。
世界の半分以上の国と地域が、学校でのスマートフォン利用に何らかの歯止めをかけ始めた。見直しの機運がそれだけ強まっているのは事実です。
ただし、ここも重要な点があります。
先に紹介した国々のように、デジタルを全部やめようという話ではないのです。あくまでもスマートフォンに限っては制限を強めましょうという話。デジタルそのものは、適切に線引きして使っていきましょう、というトーンに変わってきている。
では、その「適切な線引き」とはなんなのでしょう。
OECD の PISA 2022 の分析から、興味深い傾向が見えています。
学習目的でデジタルリソースをまったく使わない生徒と、1日1時間程度使う生徒を比べると、1時間程度使う生徒のほうが数学の得点が14点ほど高いのです。しかもこれは、家庭の社会経済的な背景などを考慮した後でも見られる差です。つまり、デジタルを使わないよりも適度に使っている生徒のほうが学習成果が出ている。
一方で、1日3〜5時間を超えるような長時間利用になると、そのプラスの関係は弱まっていきます。5〜7時間といった超長時間になると学力の低下が見られます。
「使えば使うほどいい」でも「使わないほうがいい」でもない。
そういう傾向が、データとして出ています。
もうひとつ、見落とせない切り分けがあります。
同じスクリーンを使う行為であっても、学習目的の使用と、お楽しみ目的の使用はまったく別の話です。
先の PISA 2022 の分析では、学校のなかでSNSや動画、ゲームのような余暇的な使い方をしている生徒は、その時間が1時間程度であっても数学の成績にマイナスの影響が出やすいことが示されています。1時間という「量」は同じでも、何のために使っているかで、結果が大きく異なる。当たり前といえば当たり前の話なのですが、データがそれを裏付けているという点は重要です。
日本の現在地
こうした世界の動きを踏まえて、日本はどこにいるのでしょう。
学校への私物スマートフォンの持ち込みについては以前からかなり抑制的でした。
文部科学省による通知「小中学校における携帯電話の取扱いに関するガイドライン」では、以下のように示されています。

一方、ICTは学校教育の基盤的なツールとして必要不可欠と位置づけられており、個人の私物スマホにはブレーキをかけつつ、学校管理下のICT活用は進める、という二重構造になっています。
そして、今、話題となっているのが、デジタル教科書に関する施策。2030年度までに本格導入するという目標を掲げており、今まさに段階的な導入が進んでいます。
世界各国でデジタル機器の制限のニュースが報じられるたびに、SNS上では「世界がアナログに戻っているのに、日本は今から完全デジタル化するのか?」という批判が相次ぎます。
しかし、実際のところはそうではありません。あくまでも紙の教科書をメインとしながら、必要に応じて併用するものとして位置づけられています。教科の特性や子どもの学年に応じて使い分けていく、というのが現在の方針です。少なくとも当面は、紙とデジタルの両立が前提であり、全面デジタル化とは別の話です。
以上のことをまとめると、以下のようになります。
✅ 私物スマートフォンの学校への持ち込みはそもそも抑制的
✅ デジタル教科書を含む学校管理下でのICT活用は、必要に応じて適切に進めていく
おおむね、世界の多くの国々と同じようなポジションを取っている、と言えるでしょう。
今回見てきた各国の動きと、OECDのデータから見えてくるのは、同じメッセージです。
「デジタルかアナログか」「そもそもデジタルを使うべきかどうかか」ではなく、何のために、どんな機器を、どれくらい、どの年齢の子どもが使うのか。そこをきちんと整理することが重要だ、ということです。
「無制限のデジタル推進」から「デジタル万能主義の見直し」へ。
日本も含め、世界の教育の試行錯誤は今、そのフェーズに入っています。
みなさんのご家庭や、お子さんの学校では、デジタルとどのように向き合っていますか?
どんなルールがあって、どんな悩み・迷いがあるでしょうか?