中学生の英語力低下の正体

中学生の英語力低下の背景にあるのは、授業設計そのものの限界です。現場の実感とデータから、その構造的な課題を読み解きます。
knockout 2026.03.30
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先日、読売新聞のある記事がSNSで大きな話題になりました。

「中学生の英語力が低下している」という内容です。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

[あすへの考]中学英語、基礎定着に課題…編集委員・古沢由紀子|読売新聞

[あすへの考]中学英語、基礎定着に課題…編集委員・古沢由紀子|読売新聞

この話題の出発点となっているのは、文部科学省が昨年8月に公表した令和6年度全国学力・学習状況調査、なかでも経年変化分析調査という調査結果です。結果を詳しく分析したところ、中学生の英語の成績が明確に低下していることが確認されました。当時も話題になりましたが、今回の特集記事で改めて注目を集めた、という経緯です。

上記のグラフからもわかるように、前回調査の2021年にくらべて英語の平均スコアが大きく落ちています

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全体的に落ちている深刻さ


ここで注目したいのは、単純に平均点が下がっているという事実だけではありません。その中身に、より深刻な問題があります。

国語や数学については、SES(社会経済的背景)と呼ばれる指標との相関が見られたと報告書にはあります。つまり、家庭の経済的・社会的な状況が厳しいほど、成績も低い傾向があるということです。ところが今回、英語については、そのような傾向が見られませんでした

これが何を意味するかというと、特定の状況にある一部の子どもたちが点数を落としたのではなく、全体として下がっているということです。

一方で、「中学卒業程度」とされる英検3級相当以上の英語力をもっている生徒の割合は過去最高を更新しています。

これはいったい何を表しているのでしょうか。


もちろん、経年変化は中長期的な分析が必要で、今回の結果だけで何かを断言することはできません。ただ、良くない傾向が起きていること、そして、何らかの対策が必要な状況であることは、この結果からも十分に読み取れます。

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現場の先生たちの実感とも一致している


この結果は、現場の先生方から聞く話とも、かなり一致しています。

よく耳にするのが、学習指導要領改訂以降、中学校の英語の内容が格段に難しくなったという声です。それにともなって、入学後のごく早い段階から苦手意識を持つ生徒が増えたという実感も、多くの先生方が口にします。

さらに、学校の授業外での経験の差が、クラス内での英語力の格差を大きく広げているという話も聞きます。塾に通っているかどうかという違いもありますが、それ以上に大きいのが早期英語の有無です。幼少期から英語環境を整えた家庭の子どもたちは、以前と比べてずっと高いレベルに達しています。


私自身も、ここ数年継続的に中高生と関わってきましたが、同じことを感じています。かなり高いレベルで英語を扱える生徒の数や割合は、明らかに増えてきています。そういった子たちを見ていると、幼い頃から親御さんが教育に熱心で、英語に触れる環境を丁寧に整えてきたことが伝わってきます。


また、「早い段階で苦手意識を持つ生徒が増えた」という点については、データでも裏付けられています。ベネッセが、教科ごとに好きと答える子どもの割合を継続的に追った調査によると、現行の学習指導要領になってから、「英語が好き」と答える中学生の割合が明らかに減っています(※下記グラフを参照。中学校で改訂が全面実施されたのは2021年度から)

子どもの「好き」な教科の変化と、
「好き」がもたらす影響|ベネッセ

子どもの「好き」な教科の変化と、 「好き」がもたらす影響|ベネッセ


「できない」より「嫌いになる」ことが問題


こうした話題に触れるたびにいつも感じることがあります。

英語ができない状態は、実はそれほど深刻ではない、ということです。


英語は、数学や物理のように純粋な論理的思考力が問われるものではありません。英語圏に生まれた子どもたちが日常生活の中で自然に習得するように、十分な量をインプットすれば、誰でも上達できるものだと思っています。だから、今現在できていない状況をネガティブに捉えすぎる必要はなく、やれば必ずできるようになる。


問題なのは、英語を嫌いになってしまうことです。

嫌いになると、人はやらなくなります。やらなくなれば、できるようにはなりません。将来、必要に迫られて再び学び直す人も一定数はいるでしょう。しかし多くの人は、中学生の早い段階で英語が嫌いになったまま、英語を使わなくてすむ道を選んでいくことになります。その結果、キャリアの可能性は大きく狭められてしまう。それはとてももったいないことだと、心から思います。

学習指導要領の改訂をきっかけに、英語力が低下するだけでなく、英語を嫌いになる生徒が増えているのだとしたら、それはかなり深刻な状況です。

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現行の学習指導要領で何が変わったのか


ここで改めて、背景を整理しておきたいと思います。

2020年は一つの節目の年で、この前後に学習指導要領の改訂が行われました。英語教育の改革は、その目玉の一つでした。主な変更点は大きく2つあります。


まず、学習量の大幅な増加です。

習得すべき単語数が増えただけでなく、これまで高校で学んでいた文法事項の一部が中学校に前倒しされました。その結果、中学生が学ぶボリュームが一気に増えることになりました。

これに対応するため、小学校での英語学習が前倒しされました。以前は小学5・6年生で「外国語活動」として英語に親しむ程度でしたが、改訂後は、3・4年生からその活動を始め、5・6年生では本格的な英語学習を行うかたちに変わりました。これにより、中学校へのスムーズな接続を図ろうというねらいでした。


もう一つは、英語の身につけ方の変化です。

これまでは「読む」「書く」の技能が中心でしたが、改訂後は「聞く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」「読む」「書く」という4技能5領域をバランスよく扱い、より実践的なコミュニケーション能力を育てることを目指すようになりました。


一見すると、理想的な改革のように思えます。小学生のうちから英語を始め、実践的な内容を学ぶ。それのどこが問題なのか、と感じた方もいるかもしれません。しかし実際の現場では、別のことが起きています。一言で言うと、授業が誰にもフィットしていない状態になっているのです。


一方では、ついていけない子どもたちが中学校の最初の段階から置いてかれ、苦手意識を持ったまま英語から離れていく。そしてもう一方では、幼少期から英語に親しんできた子どもたちにとって、中学校初級レベルの内容は簡単すぎて、授業を聞く必要すら感じない。


これまでの学校教育は、クラスの真ん中の層に合わせた授業設計を基本としてきました。それは、みんなが中学校からスタートするという前提の上に成り立っていたのです。

しかし今は、幼少期から英語に触れてきた子もいれば、ほぼゼロからスタートする子もいる。そういった多様な子どもたちが同じクラスに混在している。平均的な授業では、もはや誰の役にも立たない。そういう状況になってしまっているのです。


つまり問題の本質は、英語の内容が難しくなったというだけの話ではありません。一人の先生が、同じ内容を一斉に教えるという授業の設計思想そのものが、もう機能しなくなっているということです。これは、より根深い構造的な課題です。


次の改訂に向けて ~AIという解決策~

こうした課題は、国としても把握しています。2030年を目標とした次の改訂に向け、現在まさに議論が進んでいるところです。中央教育審議会の外国語ワーキンググループでは、この問題をどのように解決するかが議論されており、その方向性はすでに見えてきています。

それは、AIを英語学習の基盤にしていく、という方向です。

教室にいる生徒の英語力に差があるなら、一人ひとりに合った学習環境を提供しなければなりません。でも、生徒の数だけ先生を用意することは現実的に不可能です。しかし、テクノロジーを活用すれば、それに近い状況を作り出すことができます。


AIの活用によって実現が期待されることは、大きく2つあります。


一つ目は、圧倒的な練習量の確保です。

言語は使わなければ上達しません。従来の授業では、誰かが話しているあいだに他の生徒が待っている時間が多くありました。一人一台の端末でAIとやり取りすることで、一人ひとりが密度高くコミュニケーションを練習できるようになります。また、クラスメートの前で話すことへの恥ずかしさや緊張も、AIが相手であれば軽減される。そういった心理的なハードルを下げる効果も期待されています。


二つ目は、即時フィードバックです。

教室で先生が一人ひとりを見て「ここはよい、ここはもう少しがんばろう」と伝えるのには限界がありますが、AIならその場でフィードバックを返すことができます。さらに、その子のレベルや関心に合わせて難しさだけでなく、内容を調整することも可能です。スポーツが好きな子にはスポーツの話題で、別の興味を持つ子にはその話題で。そうした個別最適化が実現できるかもしれません。

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課題は、先生側の対応力


授業のあり方が根本から変わるということは、現場の先生たちに、教え方の構造転換を迫ることでもあります。

これまでのやり方が通用しないことへの心理的抵抗を感じる先生もいるでしょう。新しいやり方に関心はあっても、ICTリテラシーの面でついていけない先生もいるかもしれません。

もし、できる先生はできる、できない先生はできないというかたちで導入が進んでしまえば、それがまた新たな格差を生む原因になります。全国の先生が新しいやり方を使いこなせるようにするには何が必要か。ワーキンググループでは今まさにその点について議論がなされています。

先日、私がSNSでこの話題に触れたとき、中教審・外国語ワーキンググループの先生から直接コメントをいただきました。神奈川の聖光学院の英語科・高木先生です。コメントのなかで「実現可能性を大きな柱として議論を進めている」と教えてくださいました。

一人ひとりの先生が「これならできる」と感じられるレベルまで落とし込んで、次の改訂に向かわなければならない。そういう認識のもとで議論が進められているとのことでした。とても心強く感じます。ぜひ、その言葉通りに実現されることを願っています。

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制度改正を待っているあいだにも、子どもは日々英語と向き合っています。次回の記事では、「このような状況のなかで、家庭でできること」を深掘りしますが、その前に、現段階で家庭が優先すべきことを以下に整理します。

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