高校改革をめぐる 「36」と「64」の衝撃

最近、「高校改革」というテーマが少しずつ存在感を増してきています。
背景にはいくつかの流れがあります。
まず、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が、国の中央教育審議会(中教審)で進んでいること。次に、少子化への対応という喫緊の課題があること。そして、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進展に、教育がどう向き合うかという問いが生まれていること。
こうした複数の観点が重なり合いながら、「高校はこのままでいいのか?」という問いが、さまざまな場面で浮かび上がってきています。
そんな高校改革を語るうえで、絶対に欠かせない数字が2つあります。
それが【36】と【64】です。
この2つの数字、何の数字かわかりますか?
この段階でピンと来た方は、相当なマニアです。
ちなみに、足すとちょうど100になりますが、残念ながら100は全然関係ありません。
今回はこの2つの数字を軸に、高校教育のいまとこれからをじっくりお伝えしていきたいと思います。
今、高校改革の現場で何が起きているか
本題に入る前に、現在の高校改革をめぐる動きを少し整理しておきましょう。
まずは冒頭でも挙げた、学習指導要領の改訂です。
これまでの日本の教育は、文部科学省が詳細な内容まで決め、全国の学校が一律にそれに従うというスタイルで運営されてきました。言ってみれば、「国が決めたことを全国一律でやる」という発想です。
しかし次期学習指導要領では、そのあり方を大きく転換しようとしています。中央が大枠を示しつつも、具体的な中身については各学校が実情に応じて判断し、運営していくという方向性です。「地域ごと、学校ごとに実情はさまざまだから、それぞれで考えて適切に運用してください」という発想への転換とも言えます。
言葉にすると当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これまでの日本の教育行政の歴史を踏まえると、かなり思い切った転換です。現場への大きな権限移譲であり、画期的な変化と受け止めています。
もうひとつが、「N-E.X.T.ハイスクール構想」。
"New Education, New Excellence, New Transformation of High Schools" の頭文字をとったもので、高校教育改革の基本方針、いわばグランドデザインとして位置づけられています。
構想のキーワードをひとつひとつ見ていきましょう。
◇ New Education|新しい教育:これまでの画一的な教育から、より多様で柔軟な学びへの転換を意味します。
◇ New Excellence|新しい優秀さ:少し面白い視点で、偏差値や一律の学力だけで優秀さを測るのではなく、地域・産業・個性といった多様な文脈に応じた形で、優秀さの定義そのものを広げていこうという考え方です。
◇ New Transformation of High Schools|高校の変革:学校制度や学校のあり方そのものを変えていかなければならないという認識を示しています。

この構想は、2040年時点の社会を見据えて、文部科学省が打ち出したものです。実現に向けては約3,000億円規模の基金が用意されており、その運用益をもとに施策を推進していく計画となっています。
ここでひとつ重要なポイントがあります。
次期学習指導要領が現場展開されるのは、2030年前後の見込みですが、N-E.X.T.ハイスクール構想はその実装を待たず、今年度からすでに一部が動き始めています。それだけ緊急性が高いということの表れでしょう。
では、何がそれほど緊急なのか。
ここからがいよいよ本題です。
【36】と【64】は、N-E.X.T.ハイスクール構想の資料に書かれてある数字になります。
【36】という数字が示すもの
【36】という数字は何を意味するのか。
結論から言うと、2020年から2040年にかけての20年間で、高校1年生の人数が約36%減少するという事実です。
やや実感しづらいかもしれませんが、教室にいる生徒の人数が20年で3分の2になると言い換えると、少しはその規模感が伝わるでしょうか。
「また国が適当な人口推計を出しているのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし今回は少し性格が違います。
2040年に高校1年生になる子どもたちは、その年に15歳を迎える。ということは、生まれるのは2025年です。2025年生まれの子どもたちは、すでに生まれていますよね。つまり、この数字は、未来を人口を推計したものではなく、すでに現実として存在している子どもたちの数から導かれた、ほぼ確定した数字なのです。
14年後には、確実にその時代がやってくる。そう受け止めると、この数字の意味合いはかなり変わってくるはずです。
さらに言うと、これは日本全体の平均値です。
東京・大阪などの大都市圏では減少が比較的緩やかである一方、少子化が急ピッチで進んでいる地方の町や村では、もっとずっと速いスピードで子どもが減っていきます。全国平均で36%減というのであれば、そうした地域の実態はさらに深刻です。
【64】という数字が示すもの
もうひとつの数字、【64】。
これは何かというと、全国の市町村のうち約64%の自治体では、公立高校の数がすでに0か1である、という現状です。
「住んでいる自治体のなかに公立高校がまったくないか、あっても1校だけ」。
これが何を意味するのか、少し考えてみてください。
もし自治体内に高校が2校以上あれば、生徒数が減ってきたタイミングで「2校を1校に統合しよう」「複数校を再編しよう」という選択肢が取れます。しかし、すでに1校しかない、あるいは1校もない自治体では、そういった選択肢はもうありません。統廃合・再編の余地がないのです。
では、どうするか。
現実的な手段としては、隣接する自治体と協力して高校を統合するしかありません。しかしそこにも大きな課題があります。
自治体が分かれているということは、そもそも生活圏が異なるということ。山をひとつ越える、川を渡るなど、地理的に別の生活圏に属している場合も多い。そうした地域をまたいで通学区域を広げると、毎朝何時間もかけて通学しなければならないケースも生じかねません。北海道など広大な面積を持つ地域では、すでにそういった状況がいくつも存在しているはずです。
こうした自治体が、全国の約64%(約3分の2)を占めているというのが今の日本です。
もうひとつ大事なポイントがあります。
【36】は2040年に向けてこれから起こる未来の話でした。しかし【64】は、すでに今、この瞬間の数字です。高校の統廃合が限界を迎えているという状況は、将来の問題ではなく、足元で起きている現実なのです。
この2つの数字を並べてみると、日本の高校教育が置かれている状況の深刻さが、改めて浮かび上がってきます。現在進行形の【64】という現実の上に、確定した未来としての【36】という波が押し寄せてくる。それが今の高校改革の出発点です。

通信制高校に浮上する「第3のパターン」
こうした状況のなかで、高校のかたちは今後どう変わっていくのか。
そのヒントとして、すでに存在感を増しているのが通信制高校です。