探究は「能力」よりも「文脈」で決まる

探究は能力だけでは決まらない。文脈が生む強さと、地方と都市の可能性をどう捉えるか。
knockout 2026.02.16
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探究学習という言葉は、すっかり学校現場に定着しました。けれど、実際に高校生たちの発表を見ていると、私たち大人が思い描いている「探究」とは少し違う景色が広がっているように感じます。

先日、教育ジャーナリストの後藤健夫さんが日経新聞(1月19日付)に書かれた記事を読みました。タイトルは「高校の授業で話せる英語学ぶ 4技能の浸透目覚ましく」。後藤さんが見学された「高校生即興型英語ディベート全国大会」のレポートで、とても共感するところがありました。

特に印象的だったのは、地方の公立高校が健闘しているという点です。

英語の即興ディベート大会となると、都会の私立中高一貫校が強いというイメージがありますが、この大会では、予選を通過した16校のうち、私立高校はわずか5校だったそう。

最終的な結果を見ると、優勝は神奈川県の聖光学院という名門私立校でしたが、準優勝は福井県立藤島高校、第3位は徳島県立城東中等教育学校と、地方の公立高校が上位に食い込んでいました。

後藤さんは「英語で考え、議論できる学生は全国に少なからずいる」とも書かれていました。相当ハイレベルなことを英語でやっている生徒たちが全国各地に分布している、ということです。

***

全国高校生フォーラムでの経験


この記事を読んだとき、私が昨年12月に参加した全国高校生フォーラムでも、まったく同じことを感じたことを思い出しました。

全国高校生フォーラムは、文部科学省が共催するイベントで、英語による探究成果の発表の場です。WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)という事業の枠組みのもと、全国の高校生が自分たちの探究活動を英語でポスター発表し、議論を交わします。WWLは、かつてのSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)事業を発展的に引き継ぐかたちで展開されています。

今年度は全国から123校が参加。私は事務局スタッフとして、記録係のような立場で参加させてもらったのですが、様々な会場を回りながら生徒たちの様子をつぶさに見ることができました。

会場の熱気はすごかったです。全国から集まった生徒たちが、自分たちの探究の成果を英語で一生懸命説明する。それだけでなく、その内容について審査員とやり取りしたり、生徒交流会の会場では他校の生徒たちと英語でディスカッションしたり。その姿を見て、最近の高校生は本当にすごいなと、心から感動しました。

表彰結果が示すもの


最後に審査があり、全部で9校が表彰されました。その顔ぶれを見たとき、後藤さんの記事と同じことを感じたのです。

文部科学大臣賞(最優秀賞)を取ったのは、東京の渋谷教育学園渋谷高校。いわゆる「渋渋」。言わずと知れた国際系のトップ校です。最優秀賞は順当といえば順当でしょう。

しかし注目すべきは、その他の受賞校。

審査委員長賞と奨励賞、合わせて8校が選ばれたのですが、そのうち私立高校が2校、国立高校が1校、そして残りの5校は公立高校でした。国立や私立で上位が占められるのではと思っていたのですが、意外とそうはならず、バランスよく様々な学校の生徒たちが表彰されていたのです。

後藤さんの記事にあったように、英語でプレゼンテーションやディベートができるような層に限れば、都市と地方の差はそれほど大きくないのではないかと感じました。全体で見れば都市部の方が英語力の高い生徒は多いのかもしれませんが、上位層は全国に広く分布しているように思えたのです。

2025年度全国高校生フォーラム / All Japan High School Forum 2025 パンフレット

2025年度全国高校生フォーラム / All Japan High School Forum 2025 パンフレット

探究テーマの多様性


もう一つ印象的だったことがあります。それは、プレゼンされた探究テーマの多様性です。

従来、英語でプレゼンテーションをするような活動は、どちらかというとリベラルアーツ分野のテーマが多かったように記憶しています。地域課題系、フィールドワーク系、グローバル系など、SDGsを強く意識するようなテーマですね。

ところが今回見ていて感じたのは、理系の研究寄りのテーマや、文理融合と言われるテーマも結構あるということでした。

探究の境界線がとけていく


例えば、審査委員長賞を取った岡山学芸館高校のテーマは「プログラミングで高齢者を救おう」

高齢者は薬の飲み忘れや孤独死の恐れがありますが、それを防ぐために服薬管理システムを3Dプリンタとプログラミング教材を駆使して開発するという内容です。これは完全に理系寄りの探究学習で、ものづくりやテクノロジーなど、様々な理系の要素が組み合わさった探究活動でした。

Okayama Gakugeikan High School / 岡山学芸館高等学校

Okayama Gakugeikan High School / 岡山学芸館高等学校

もう一つ、こちらは残念ながら最終決選には残らなかったのですが、昨年度の文部科学大臣賞受賞校である名古屋大学教育学部附属高校。今年度のテーマは「日本人の英語力向上」でした。

このテーマだけ見ると文系寄りのグローバルなテーマに思えますが、そのアプローチが非常に統計的・データサイエンス的だったのです。こうした文理が融合した発表も目に留まりました。

Affiliated Upper and Lower Secondary Schools, School of Education, Nagoya University / 名古屋大学教育学部附属中・高等学校

Affiliated Upper and Lower Secondary Schools, School of Education, Nagoya University / 名古屋大学教育学部附属中・高等学校

つまり、リベラルアーツ系の探究(文系寄り)と理系寄りの探究の間に、今までぼんやりと感じていた境界線が、今どんどんなくなってきているのです。

評価の難しさ


となってくると難しくなるのが、それぞれの探究をどう審査し、どう評価するかという点です。

大学の研究のように専門性の高いものもあれば、企業と連携した実践型のプロジェクトもある。地域活動と一体化したものもあれば、じっくり調べ学習を積み重ねたものもある。発表を見ていると、本当にいろいろで、まさに“同じ競技とは思えない”感覚になります。

それもそのはず、探究学習は、方向性こそ学習指導要領で示されていますが、具体的な進め方は学校ごとにゆだねられているのです。その結果、成果物も自然と多様になります。

多様性が生じること自体はすごく素晴らしいことです。一方で、こうした多様な探究を、コンテストのように同じ土俵で並べ、順位づけようとすると一気に難しくなります。

審査する先生方もそれぞれ探究や研究の指導経験をもっていますから、どうしてもご自身の「こういう探究がよい」という感覚が、無意識のうちに評価に影響することもあるでしょう。

明確なフォーマットがない以上、評価には揺らぎが残ります。

***

文科省の整理の試み


こうした流れを受け、文科省も次の学習指導要領改定に向けて、探究学習を「行動系」「研究系」「創作系」の3つに分類しようとしています。

総合的な学習・探究の時間に関する目標・内容の構造化等について(前提となる諸論点の整理)より

総合的な学習・探究の時間に関する目標・内容の構造化等について(前提となる諸論点の整理)より

図にもあるように、これらは独立したものではなく、テーマや目的に応じて組み合わせることも可能だとされています。


ただ、概念的に整理したからといって、評価の難しさが解決するわけではありません。

「では、基準をもっと厳密にすればいいのではないか?」

そう考える人もいるでしょう。しかし基準が明確になればなるほど、今度はその基準に合わせて成果物が最適化されてしまう。これが競争の形を取るコンテストの宿命です。

特に、探究の成果をコンテストでの受賞歴を添えて大学受験に活用したいという生徒や、彼らの成果を使って進学実績を高めたいと思っている学校にとっては、評価軸に合わせて探究の方向性を “整える”インセンティブは十分です。そうなれば、似た方向の探究ばかりになってもおかしくありません。

そうした傾向があまりに進むと、ある種“ごった煮”感のある現状のフォーラムの魅力が損なわれてしまうのではないかとも思います。多様性が担保されているからこそ、自分たちとは全然違うアプローチで探究をしている他の生徒、他の学校からたくさん刺激を受けられる。そうした側面は確実にあるからです。

「コンテスト形式を成立させる公平性」と「探究アプローチの多様性」、これらを両立するというのはやはり簡単ではありません。

探究は「能力」ではなく「文脈」の競争になっている


ここまで見てきた全国高校生フォーラムの様子から、私が感じたことがあります。

それは、探究学習において、取り組みの巧拙と同じくらい、その生徒が置かれた文脈に重きが置かれるようになっているのではないか、ということです。


たとえば、地方の高校生には、地方ならではの強みがあります。

地域固有の課題に着目した探究は、聞いている側の心を揺さぶる力があります。過疎化、高齢化、地場産業の衰退、伝統文化の継承、地域コミュニティの課題……。こうしたテーマは、その土地に暮らす高校生だからこそリアルに捉えられ、当事者性を持って取り組むことができます。受け止める側も、そこに「本物の手触り感」を感じるのです。


一方、都市の高校生にも、都市ならではの強みがあります。

大学や研究機関、企業との連携がしやすい環境があり、最新の研究手法や技術にアクセスしやすい。データサイエンスやプログラミングといった方法論を駆使した分析、あるいは分野を横断した学際的なアプローチなど、洗練された方法論で差別化を図ることができます。


つまり、地方と都市では、探究における「強みの種類」が違う。どちらが優れているという話ではなく、それぞれが持つ文脈を活かした探究のあり方がありそうだ、ということです。

***

家庭ができること

では、保護者の立場から、子どもの探究学習をどう支えていけばいいのでしょうか。

まず大切なのは、探究のタネは身の回りにたくさん転がっているということを再確認することです。

日常生活の中での小さな違和感。「なんでこうなってるんだろう?」という疑問。地域で当たり前だと思っていたけれど実は独特なこと。こうした些細なことが、探究のきっかけになります。

住んでいる地域の特性を活かすことも重要です。地方であれば地域課題というリアルな文脈があり、都市であれば多様な人や組織との接点を持ちやすい。その環境の中で、子どもが小さい頃から抱いていた「なぜ?」を大切に育てていくことが、後々の探究学習につながっていくのではないでしょうか

特に大学入試で探究の成果を活用したいと考えている場合は、早い段階からテーマの方向性を意識しておくことも必要かもしれません。

***

今後強くなると予想される探究テーマの特徴


ここまで見てきたように、探究学習は単なる能力の比較ではなく、環境や文脈と深く結びついた営みになっています。

では、大学入試との接続が進むこれからの時代、どのような探究が評価されやすくなっていくのか。そして家庭は、どんな視点でそれを見守ればいいのか。

ここから先は、その点を少し現実的に掘り下げてみたいと思います。

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