子育ての観察記録はAI時代の資産になる

子育てをしていると、「この瞬間は絶対に忘れない」と心に刻むような場面に出会うことがあります。初めて歩いた日、初めて話した言葉、感動的な一言。こうした感動的なシーンに出会ったりすると、「この時のことはもう二度と忘れないぞ」と思いますよね。
しかし、人間の記憶は思っている以上に儚いもの。忘れないと決めた出来事ですら、時間が経てば簡単に薄れていってしまいます。日常の何気ない瞬間であればなおさらです。今日子どもがどんな遊びをしていたか。どんな表情を見せたか。どんなことを言っていたか。そんな取るに足らないことは、ほぼ確実に忘れてしまいます。
Xで子育て記録をつけて得られた思わぬメリット
私はというと、かれこれ10年以上、X(Twitter)で子育ての記録をつぶやき続けてきました。
フォローしてくださっている方はご存知かもしれませんが、私は自分の昔のツイートをセルフリツイートすることがよくあります。子どもたちがまだ小さかった頃の、なんてことない日常的なツイートを、思いだしたように自分でリツイート(再投稿)するのです。もちろん懐かしいなと思いながらやっていることもあるのですが、よくあるのは、今、目の前で起きていることに関連することを頭に思い浮かべ、「そういえば昔こんなことあったな」と思い出しながらそのツイートを検索し、リツイートするパターンです。
検索する際には、「ツイログ(Twilog)」 という外部サービスも使っています。X本体にも検索窓があって検索することはできますが、使い勝手がイマイチだったり、仕様変更の影響を受けやすく、以前はできていたことができなくなってしまうといったこともあります。なので、あえて、外部サービスのツイログを使って検索することが多いです。
ツイログのよいところは、そのツイートだけを検索するだけでなく、そのツイートをした日全体のツイートをまるごと表示させたり、その近辺のツイートを遡ってみたりすることが簡単にできることです。ツイート単体だけでなく、なぜそのツイートをしたのかという文脈も含めて思い出すことができる。まとめて見ることができる。それがとても便利です。
子育てをしているなかでしばしば遭遇する「あれ、これって昔も似たようなことがあったな」と感じる瞬間。そんなときには、検索機能の充実したツイログをひらいてさっと検索する。すると、すぐに過去にあった似たエピソードを引き出せます。そして、今観察していることと過去の記録が繋がると、そこに一つのストーリーが見えてくるのです。観察したその点と点が繋がるのです。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチに「コネクティング・ドッツ」という言葉があります。一見何の関係もなさそうな点と点だったのに、ある日突然その点と点を繋ぐ補助線のようなものが見えてきて、繋がりはじめる。そしてそれが、自分にとって非常に意味のあることだったり、天命や使命に思えてくる。そんな考えを示す言葉です。
物語や小説でいうところの伏線回収ですね。ドラマや映画にもありますが、「あ、そんなことがそういえばあったよね」とシーンが後々重要な意味を持つ。これは子育てでもあるのではないかと思っています。
日常の子どもたちの何気ない言動をデジタルで記録し、いつでも検索しやすい状態にしておく。そうすることで、その裏に潜んでいる文脈を発見しやすくなり、気づいたときに関連付けて、ストーリーとして紡いでいくことができる。本当にすぐ忘れてしまいそうな日常のふるまいのなかに、重要な意味を見出すことができるのです。
これは、X(Twitter)でつぶやきはじめた頃には想像もしていなかったメリットです。

ニュージーランドの「ラーニング・ストーリー」
海外の事例ですが、ニュージーランドの幼児教育では「ラーニング・ストーリー」という教育手法が使われています。これは、子どもが遊びながら、あるいは遊びを通して学びながら、いろいろな活動をしている様子を、保育者が観察し、記録しておくものです。ただ記録しておくだけでなく、保育者同士でその子の“見取り”の情報を共有する時に使われます。
日本だと保育園の連絡帳に近い位置づけのものになるでしょうか。園であったことを家庭に伝える、逆に家庭であったことも園に伝える。そうすることで、その子を見つめるまなざしが滑らかに接続されます。保育者同士、そして、保育者と保護者の目線を合わせることができるのです。
このラーニング・ストーリーは非常によくできていて、大人同士で目線を合わせるための共通基盤になっているだけでなく、子ども自身が自己理解を深めるためのツールとしても使えます。
子どもは親以上に自分のことを覚えていません。気分も記憶もすぐに散らかって忘れてしまう生き物なので、それを彼ら自身の中で留めておくことは非常に難しいのです。ですから余計に、成長した後、自分の進路やキャリアを考える際に、小さい頃からの何気ない情報の積み重ねが、重要な手がかりになるのです。
日本の教育改革とJAPAN e-Portfolioの挫折
実は、2020年教育改革が叫ばれていた際に、進路を考える上で、その手がかりとなるような情報を溜めておく仕組みが必要だという議論がなされていました。国の主導で「JAPAN e-Portfolio」というポータルサービスを整備しようとしていたのです。
成績だけでなく、学びの履歴や活動記録を蓄積・可視化し、それをもとに自分自身を振り返り、将来の進路を考えるための基盤をつくることを目的としていました。
しかし、このサービスの中に学校の成績や個人の様々な情報も含まれる設計になっていたことから、個人情報保護の観点で強い懸念が示されました。情報漏洩のリスクはどうするのか、セキュリティや責任はどうするのかといった批判が高まり、最終的に「JAPAN e-Portfolio」は構想のまま頓挫しました。
この判断自体は、一定の合理性があったと思います。しかし一方で、困ったことも起きています。
本来であれば、こうしたポータルサービスに蓄積された学びの履歴やストーリーを元に自己分析を行い、「自分だったらこういう大学(学部)が合う、こういう進路がふさわしい」と自己表現しながら大学入試の総合型選抜や学校推薦型選抜に臨む建て付けでした。ところが、ポータルサービスが世に出ないまま、つまり、生徒自身が自分で自分のことを振り返る仕組みが整わないまま、そうした選抜制度だけが想像を上回るペースで拡大の一途をたどっています。
これは非常に由々しきことだと思っています。しかしながら、現実としてそうなっている以上、家庭としては何かしらのかたちで手当てをしていかなければなりません。子どもの進路選択をサポートする意味でも、小さい時からの子育ての観察記録を、できればデジタルの形で、積み上げていくことの重要性は今後ますます高まっていくと予想しています。

AIが記録を読み解く時代になった
ここ最近、私が感じているのは、いよいよAIによる観察記録の活用が現実的になってきた、ということです。
Xにも2023年秋にAIの機能がつきました。「Grok」です。その後、バージョンアップを重ね、今ではGrok 3となっています。バージョン1や2の時は、正直使い物にならず、実用的とは言い難い品質でした。それがバージョン3になったらかなり賢くなりまして、実用に耐える水準になったと感じます。
今、ChatGPTやGemini、Claudeなど、様々なAIがあります。そのなかでもGrokの特徴の一つは、過去のツイートを丁寧に検索してくれる点です。Xの中に蓄積されている情報をちゃんと見てくれる。他のサービスはそこまでやってくれなかったりするのですが、ここがGrokの最大の強みになっています。
試しに、私はこんなことをGrokに聞いてみました。「knockoutさんの次男さんって、どんなお子さんですか?」。すると、過去に呟いたいくつかのツイートを引っ張り出してきて、それを元に構成した次男像を表現してくれました。自分自身が過去に呟いたエピソードなのに、すでに記憶が薄れていたものもあり、それを見てちょっとうるっと来てしまいました。
そして、うるっと来ただけでなく、このAIの使い方には大きな可能性があるとあらためて感じたのです。
AIが「観点」を提供してくれるように
ここで重要なのは、検索の主体が変わったということです。
これまでは、自分が感じたことをもとに、それに関連したものを検索しようと思って過去のツイートを「自分で」検索していたわけです。ツイログを使って。この場合、当然、今の自分の考えや感情に合った検索結果が出てきます。そのキーワードで調べているわけですから。
つまり、現在の点と過去の点を結ぶための観点やキーワードは、あくまでも自分の側が持っていたのです。その観点やキーワードに合わせた子どもたちの観察記録を結び合わせて、自分自身でストーリーにしていく、という筋道でやっていました。
しかし、いよいよこれが変わってきたなと感じています。
今回、私はGrok 3に「knockoutさんの次男さんって、どんなお子さんですか?」というオープン・クエスチョンで聞きました。こちらがキーワードや観点を持っていない状態で質問を投げかけたのです。
すると、AIであるGrok 3は、過去の膨大なツイートの中から主体的にキーワードや観点を見つけ出してくるのです。たくさんある、それこそ何十万というツイートを、私は投稿しています。その中にある子ども関連のつぶやきの中から、次男のものを見つけ出し、「このエピソードとこのエピソードがあるということは、次男さんはこんなキャラなんだ、こんな個性を持っているんだ」という推察をしてくれる。
つまり、観点を提示する主体がAIへと移ったのです。これが、これまでと大きく異なる点であり、可能性を感じた点です。

データマイニングの手法が子育てにも
みなさんは、2000年頃に流行った「データマイニング」をご存知ですか?その中に「バスケット解析」という手法がありました。
スーパーのPOSデータを分析し、一緒に買われやすい商品の組み合わせを探し出すという方法論で、探索的かつ斬新なデータ分析手法として話題になりました。
最も有名なのは「ビールと紙おむつ」の話です。
あるスーパーの購買履歴を分析したら、興味深い組み合わせがいくつか出てきました。その中のひとつが「ビールと紙おむつ」の組み合わせだったのです。
これ、どんな状況か、なんとなく想像できませんか?赤ちゃんが生まれた家庭で、ママさんは赤ちゃんのお世話で手いっぱい。そこで、「あなた、おむつがもう切れそうだから買ってきて」と頼まれた旦那さんが、スーパーにおむつを買いに行き、そのついでに自分のビールも買って帰る。そんなストーリーが目に浮かびますよね。
たくさんデータがあると、コンピューターが、その膨大なデータの中から関係性を、それも、人間の目からはなかなか気づきづらい関連性を見出して、示してくれる。こういった手法は、ビジネスの領域では、少なくとも2000年頃には社会実装されていたのです。
AIがめきめきと力をつけてきたこの先、子育てや教育分野でも同じようなことが十分起こり得ると考えています。
観察記録がもたらす新しい可能性
観察して気になったことがあったら書き留めておく。その一つ一つの記録は、本当に些細なことかもしれません。でも、たくさん蓄積しておくことで、後でそれらをまとめてAIに学習させると、人間では思いもよらなかったようなその子の個性や癖、強みや弱みといったところが見えてくる。
意外と人は、家族であっても相手のことを色眼鏡で見ているところがあると思います。だからこそ、いったん客観的に相手を捉えるための参考資料として「AIから見たその子像」のような参照軸があると、子どもを観察する目が養われるのではないかと思うのです。これまで親は、自分が持っている観点でしか子ども像をつくりあげることができませんでした。AIは、観点そのものを提示します。つまり、子どもを見るためのレンズを新たにもたらしてくれる存在なのです。
もちろん「AIから見たその子像」をすべて鵜呑みにする必要はありません。ときには親の主観や直感のほうが芯を食っているときもあるでしょう。しかし、自分とはまた違った角度から子どもを見つめてくれる存在があるのは心強いもの。そうしたアシストの機能に手助けされながら、もっと自分の子どもに寄り添った声がけをしたり、体験を用意したり、あるいは学校選びの参考にしたり……といったことが実現できるようになるのではないでしょうか。

忙しい家庭でも続けられる記録のコツ
「記録が大事なのはわかった。けど、忙しくて無理」。そんな声が聞こえてきそうです。
たしかに、毎日完璧に記録するのは大変です。でも、完璧である必要はないと思っています。最初の一歩としては、その日、気になったことを一言メモするだけで十分。「今日、〇〇が△△と言った」「××に興味を示していた」。一行で構いません。
使うツールも、私自身はX(Twitter)をメインの居場所として使ってきましたが、それにこだわる必要はありません。スマホのメモ帳やLINEの「自分専用トーク」でもなんでもかまいません。アナログ派の人は手帳でもいいかもしれない。後からデジタル化するのは手間ですが、今後AIによってOCRの精度(手書き文字の認識率)も100%に近いものになっていくはずです。習慣化のコツは、ハードルの低さ。自分にとって、より負荷の軽い方法を選びましょう。
週に1回でも、月に数回でも、記録がゼロよりは圧倒的に価値があります。写真を撮ったついでに、その時の状況を一言添える。それだけでも立派な観察記録になります。
完璧を目指すあまり、体制が整ったらはじめようと先延ばしにすることのほうが機会損失は大きいです。AIが進化したからといって、「あとでAIを使えばいい」という考えは成立しません。データがなければ、AIは何もしてくれないからです。AIは過去の記録を分析し、そこから洞察を引き出すツールであって、頭の中にある記憶を復元する魔法の杖にはなりません(少なくとも今は)。
子どもが中学生、高校生になって進路を考えるとき、「そういえば小さい頃、何が好きだったかな?」と思い出そうとしても、記録がなければ思い出すことは困難です。親の記憶も、子ども本人の記憶も、曖昧になっています。その時になって慌てて記録を始めても、取り戻せない時間があるのです。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、始めることと続けること。細く長く、できる範囲で残しておく。そうすれば、数年後にはお子さんの貴重なデータベースが出来上がっているはずです。
子育てのなんてことない観察記録を積み上げておくこと。その価値は、AI時代の到来とともに、ますます高まっていきます。「やっておいてよかった」と思われる日が、きっと来るはずです。
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※ この記事は、Voicy 2023年12月4日の 「#37 子育てのなんてことない観察記録を積み上げておくことの大切さ」と、2025年2月27日の「#318 SNSに残した育児メモがAIで役立つ時代へ」を元に構成したものです。
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