日本人の海外留学に、気になる変化が起きている

この秋から、甥っ子がヨーロッパの大学に約1年間の交換留学にいっています。
姉貴の息子なんですが、中学・高校時代からコツコツ勉強するのが得意な子でして、大学にも優秀な成績で入ったと聞いています。英語も、海外に住んでいた経験があるわけでもなく、国内でずっと勉強してきたんですが、とてもよくできる。しかも、わりと外交的な性格。現地に着いて間もないころから仲のいい友達ができて、「今度はうちの国に遊びに来なよ」なんて誘われているらしいです。
こういう話を聞くと、いいなあと思います。うらやましいなとも思うし、日本の若い人たちには、もっとこういう経験をしてほしいとも思います。
そんな身近な話がある一方で、日本人の海外留学について、最近ちょっと気になる数字が続けて出てきました。
留学する人は増えている。でも……
日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、2024年度に海外留学を開始した日本の大学等の学生は約9万1,000人。コロナ禍で大きく落ち込んだ留学者数は、ここ数年、回復傾向にあります。

出典:トビタテ!留学JAPAN「データでみる日本の留学 対象別留学生数データ」
ただ、気になるのは、その内訳です。
1か月未満の短期留学が全体の約3分の2を占めているんです。
しかも、この1か月未満の留学は前年より増えているのに、1か月以上の留学は、どの期間区分でも人数が減っている。
つまり、留学する人は増加傾向にあるものの、長い期間、海外で学ぶ人は減っているんです。

出典:日本学生支援機構(JASSO)「2024年度日本人学生留学状況調査」より作成
もうひとつ、日本私立大学連盟が10月9日に公表した調査では、加盟する私立大学の海外派遣留学生数が、コロナ禍以降初めて前年を下回りました。
円安による留学費用の高騰や、不透明な国際情勢が背景にあるのではないかとされています。

出典:日本私立大学連盟「国際教育・交流調査2025 調査概要」
さらに、海外留学協議会(JAOS)の調査でも、2025年の個人留学者数が前年より大きく減っています。

出典:一般社団法人海外留学協議会(JAOS)「日本人留学生数調査 2025」※JAOS加盟事業者を通じた個人留学者数
日本私立大学連盟と海外留学協議会の2つの調査、これらはいずれも対象が限定されたものなので、数字をつなぎあわせて「日本人の留学が減り始めた」とまでは言えません。
ただ、留学の短期化が進んでいることに加えて、(一部の調査では)海外に出ていく人数にも減少の兆しが見えていること。ここまでは言えるのではないかと思います。ちょっと心配になる数字です。
ところで、「短期留学だっていいんじゃない?」
そう思っている方、いますよね。
私自身も、短期留学、全然悪くないと思います。
1週間でも2週間でも、慣れない土地に行って、違う言葉や文化に触れることには十分意味がある。初めて海外に行くなら、まず短い期間から始めるほうがハードルも低いでしょうし、それが次の長期留学につながることだってあるはずです。
ただ、やっぱり長期留学だからこそ得られるものもあると思っています。
旅行に行くことと、その土地で暮らすことの違い、と言ってもいいかもしれません。
短期留学では、どうしても用意されたプログラムや準備された環境のなかで過ごすことが多くなります。でも、半年とか1年とか現地で暮らすと、質が変わってくるんですよね。
観光客でもなければ、お客さんでもなくなる。
授業についていけなかったり、友達とうまくコミュニケーションが取れなかったり、文化の違いに戸惑ったり。ときには嫌な思いをすることもあるでしょう。
でも、そのなかで日々の生活を続けていかなければならない。
そういう環境で初めて見えてくるもの・感じられるものが、きっとあると思うんです。
私は、そこにこそ、長期留学の大きな価値があると思っています。
友達が暮らしている国になる
甥っ子の話に戻りますが、ヨーロッパって国と国との距離が近いじゃないですか。
「エラスムス」という学生の国際交流を支える制度もあって、いろいろな大学の学生が国を越えて行き来することが仕組みや文化として根づいています。移動もしやすい。
だから、大学でできた友達が実は別の国から来ている学生で、「今度はうちの国に遊びに来なよ」という話にもなりやすいのでしょう。日本人の感覚より、近隣の国に遊びに行くことがずっと身近なんだろうと思います。
学生時代にできた友人とは、その後も関係が続くことがあります。卒業して10年、20年経ったころには、それぞれの国で仕事をしているかもしれない。何かビジネスを始めようとしたとき、「そういえば、あの国に友達がいたな」となるかもしれません。
あるいは、国際情勢が緊張したとき、その国のニュースを、単なる遠い国の出来事ではなく、友達が暮らしている場所の出来事として受け止めるようになるかもしれない。
これって、すごく大きな違いだと思うんです。
外交というと政治家や外交官がするものだと思いがちですが、国と国との関係を支えるのはそれだけじゃない。普通の人たちが行き来して、友達になって、互いの文化や価値観を理解する。そういう草の根の交流が、長い時間をかけて国と国との関係を支えていくんだと思います。
だから、もっと海外に出ていってほしい。
……と願うのですが、今は留学に本当にお金がかかるんですよね。ものすごくかかります。

業務スーパーによる留学支援
円安に世界的な物価高も重なっています。日本で暮らしていても物価が上がったと感じますが、海外に行くとなると、さらにその差を実感することになるでしょう。
甥っ子は交換留学なので、留学先の大学に別途授業料を支払う必要はありません。それでも住居費や食費はかかります。1年近く暮らすとなれば、相当な金額です。
その点、彼は給付型の奨学金を利用しているそうです。
支援してもらっているのは、業務スーパーの奨学金。
そう、あの業務スーパーです。
正式には、公益財団法人業務スーパージャパンドリーム財団が実施している留学支援事業なんですが、これがなかなかすごい制度でして。
2026年度は年間約800人を募集。留学先に応じて月額15万〜20万円、さらに渡航費などに充てられる一時金も支給されます。給付型ですので、いずれも返済の必要がありません。
たとえば、月20万円の地域に9か月留学するなら、それだけで180万円。そこに一時金も加わる。かなり手厚い支援です。甥っ子も、大きな出費さえなければ、現地の生活費をカバーできそうだと話しているそうです。
応募には語学力や成績などの条件がありますが、こうした民間制度があることで、海外に行くという選択が現実のものになる人は相当いるんじゃないかと思います。
留学は、本人のためだけの投資ではない
留学のための奨学金というと、基本的には本人の学びや成長を支えるものなのですが、個人的には、それだけじゃないと思っています。社会にとっての投資でもある。
たとえば甥っ子が海外で暮らして、いろいろなことを学んでくる。それはもちろん本人の財産になりますが、日本社会にとっての財産にもなると思っています。
これから人口が減っていく日本では、国内市場だけで成長するのは難しくなっていくでしょう。海外の市場に出ていく必要もあるし、海外の企業や人たちと協力する機会も増えていくはずです。おまけに、国際情勢もずいぶん難しくなっていますよね。
外国の人たちと協働する。異なる文化や価値観を理解して、国境を越えた人脈をつくる。海外の事情を、知識としてではなく、自分の経験として理解している人が増える。
それって、日本社会にとっても大きな意味があると思うんですよね。
こんな話をすると、「でも、留学したって、そのまま海外に行っちゃう人もいるんじゃない?」と思われるかもしれません。
それだって悪いことじゃないと思っています。
日本に戻ってこなくてもいいじゃないですか。
海外に拠点を構える日本人が増えれば、そこに新しいネットワークが生まれます。現地で仕事をして、生活して、いろんな人とのつながりをつくっていく。もしかしたら、日本と海外をつなぐ存在になるかもしれません。
どこで働こうが、どこで暮らそうが、そうやって人と人をつないでいくこと自体に社会的な価値があります。それだって、十分に国益に資することです。
日本に帰ってくるかどうかだけで、留学の価値を考える必要はないです。
「内向き」で片づけていいのか
今回の数字を見て、もうひとつ考えたことがあります。
よく「若者の〇〇離れ」って言いますよね。
若者の車離れに、海外旅行離れ。これについても、お金の問題がかなり大きいのではないでしょうか。
車が欲しくないというより、買う余裕がない。
海外旅行に行きたくないというより、行く資金がない。
留学も同じですよね。
「最近の若者は内向きになった」と言われますが、海外で学んでみたいなとチラっと思って、費用を調べてみたら、とても手が届かない。だったら、最初から考えないようにしよう。自分の選択肢のなかに入れないようにしよう。そういう人も、けっこういると思うんです。
意欲があれば何でもできる、なんてことはない。
意欲だけでは、どうにもならないことがある。
若者の意欲を引き出そうとか、挑戦する精神を育てようとか、そういう話も大事ですが、その前に、挑戦するための環境をちゃんと用意できているのか。
私は、もっとそこに目を向けたい。
子どもの数はどんどん減っています。これから若い世代の人口も本格的に減っていく。だったらなおさら、若い人たち一人ひとりに、社会としてもっと投資していいんじゃないでしょうか。
教育にお金をかけて、新しいことに挑戦するための経済的なハードルを下げる。そういうことを、もっと本気でやっていいと思うんですよね。
まさに今が、若者に投資するタイミングだと思います。今ここで十分な投資ができなければ、後から取り返すのは相当難しくなるんじゃないか。もしかしたら、最後の大きなチャンスかもしれません。
留学に限った話ではないのですが、若い人たちが何かに挑戦したいと思ったとき、その意欲を経済的な理由で諦めなくてもいい。
そういう社会にしていきたいですよね。
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※ この記事は、2026年10月20日の Voicy「#398 日本人の海外留学に、気になる変化が起きている」をもとに構成したものです。
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